徳島佐藤荘の柴犬全頭の遺伝子型検査ならびに犬舎見学に関する報告

1. 遺伝子型検査

実施期間:令和元年(2019年)5月〜7月にかけて、同期間に徳島佐藤荘に所属していた繁殖犬全頭(42頭: 牡20頭、牝22頭)をかかりつけの動物病院にてEDTA全血を採血し、その血液から抽出したゲノムDNAを用いて以下の遺伝子型検査を実施した。

検査対象:検査対象とした遺伝子疾患およびその原因変異は以下の通り。
GM1 ガングリオシドーシスの原因変異GLB1:c.1647delC
サンドホフ病(GM2 ガングリオシドーシス0 亜型)の原因変異HEXB:3 bp-deletion mutation

検査方法:TaqMan MGB 蛍光プローブを用いたリアルタイムPCR 法を採用した。

検査結果:42頭全頭において、両疾患の原因変異に関する遺伝子型は野生型ホモ接合体(wildtype homozygote)、つまり変異アレルを有しないクリア(clear)の遺伝子型であった。

繁殖対策:同犬舎が飼育している犬には、現在までに柴犬で知られている遺伝子疾患の既知変異(前述の2種類)が存在していないことがわかったため、現時点ではこれらの疾患を予防する ための配慮(繁殖コントロール)は必要ない。しかし、新たに犬舎外から柴犬を導入する場合には、同検査を実施してclear型の犬だけを導入し、犬舎内に変異アレルを有する犬(キャリア)を導入しないように配慮する必要がある。ただし、潜在する未知の遺伝子疾患が顕在化しないように、極端な近親交配は避けて、時に繁殖ラインの異なる犬(同2疾患の変異に関して遺伝子型がクリアの犬)を導入することも必要となる。

2. 犬舎視察

視察日:令和元年(2019 年)8 月24 日(土)

視察内容:飼育施設(ケージ、清掃状態、温度管理、等)、飼養方法(餌の内容、給餌方法)、健康管理(運動、体重管理、駆虫薬、蚊対策、ワクチン、等)について、実際の犬舎および犬 舎敷地内外の犬散歩経路を見学しながら随時オーナーとの質疑応答を行った。

視察結果:飼育施設は清潔かつドライに保たれており、糞尿の臭気もかなり低く保たれていた。糞は随時ケージ内から取り除かれており、糞が長時間ケージ内に残されているケースはほぼなかった。脱毛した被毛もほぼ施設全体に残っている場所は見当たらなかった。飼育施設全体は風通しが良く(各所にファンが設置)、雨や直射日光を防ぐ開閉可能なカーテン等も設置されてい た。温度管理は大容量エアコンからの冷風(外気温に応じた温度調節)を各ケージにダクトを使って分配されていた。また、エアコンからのダクトは、トレッドミル走行時の犬や処置台で被毛のケアをされている犬にも配されており、熱中症対策が十分にとられていた。

成犬は1頭ずつ十分な広さのケージ(金網および木製塀を使った囲いとその中の小屋)にて飼育されていた。現状の飼育形態(ケージの大きさと運動量)は、他の国内のいかなる犬舎と比較しても犬の生活の質(QOL)に相当配慮されていると判断できた。ただし、犬同士は互いがある程度見えるような状態に配置されているが、複数の犬が 同一の領域に飼育されて、互いにスキンシップできるようなケースはなかった。繁殖犬として の 柴犬の性格上ある程度の隔離飼育は致し方ないが、共存できる犬同士の同居も検討すべき課 題かとも思われた。単房飼育でストレスが最も軽減される犬もいれば、同居飼育でストレスが少なくなる犬もいるかもしれない。柴犬の気質として多くの犬に同居飼育を適用するのが難しい面もあるが(闘争もあるため)、ドッグラン(複数頭で交流できる広場)の設置も考慮に入れて、将来的には犬同士のコミュニケーションの機会も検討してほしいと感じた。その場合には、どのような飼育形態のバリエーションを作ればよいかなど、柴犬の気質をよく理解した犬行動学の専門家とのコンサルテーションも必要かもしれない。泌乳中の犬は、子犬と同居できる適切なケージに飼育されていた。

餌はある企業の商品(輸入品)が採用されており、タイプ(ダイエットタイプなど)も個体の体重変動や見た目(ボディコンディション)に応じて、微細に変動が加えられて調節されていた。すべての犬のボディコンディションは適切であり(肥満や削痩した犬は見当たらなかった)、元気や活力も非常に高かった。
運動は散歩コースでのリードでの歩行に加えて、2台のトレッドミルでの運動を適用している。体重は毎日全頭測定されて細かく管理されて いる。一般的に必要な駆虫およびワクチンが実施されており、蚊対策として蚊取り線香が使われていた。

総合的にみて、犬の飼養管理、健康管理およびストレス管理は細かく実施されており、繁殖犬としてのQOLはかなり高いレベルで維持されていると感じられた。

令和元年 8月26日
鹿児島大学 共同獣医学部 教授
大和 修

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