日本列島は現在は海によって大陸と隔てられていますが、古代の人達はどのようにして日本にやって来たのだろうか。また犬や他の動物たちはどうだったのでしょう。
地球はおよそ11万年位前から最終氷河期に入り、温暖期と寒冷期を繰り返しながら、気温は低下してゆきました。約2万年前には最寒冷となり、この間に海水は雪や氷となって陸地に固定され、南極・グリーンランド・北米大陸・ユーラシア大陸の広い範囲が厚い氷床に覆われました。そして海水準は120mも低下したのです。この結果、日本列島は大陸とほぼ陸続きとなりました。対馬海峡・津軽海峡は完全には陸化されなかったと考えられていますが、海峡はずっと狭まっていたことでしょう。あるいは氷で埋め尽くされていたかも知れません。
氷期によって形成された陸橋※を渡って、古代の人々が朝鮮半島やシベリア・樺太方面から日本列島に渡来したと考えられています。その頃、先日本犬達はどこでどうしていたのでしょうか。すでに日本に先住していたのでしょうか。それとも古代の人びとと一緒に渡来してきたのでしょうか。いずれであるかは解明されてはいませんが、約11,000年前の縄文草創期にはすでに犬の飼育が始まっていたことが確認されています。
※陸橋:氷河時代に海面が低下して陸地となった部分
後期旧石器時代の後、およそ12,000年前から始まり、2,500年前までの間続いた石器と土器を使用し、狩猟・採集の生活をしていた時代を縄文時代と呼んでいます。この時代に人間に飼育され、使役に供されていたであろう犬が縄文犬と呼ばれる犬達です。現在の日本犬の遠い祖先です。
遺跡から発掘された犬骨からみて、当時の犬は小柄で、柴犬位の体格であったろうと推定されています。頭蓋骨を見れば、顔面線は平坦で、額段(ストップ)が非常に浅いことがわかります。また頬骨弓は湾曲やや小さく、顔幅は柴犬よりもやや狭いように見られます。顔つきは柴犬とは随分異なっていたことでしょう。
例えばオオカミの頭蓋骨と比べてみれば、縄文犬の顔面線はオオカミと良く似ています。縄文犬は野性イヌ科動物に近い頭部であったと考えられます。
イヌは人の傍らで生活するようになり、餌の取り方が変わり、それに伴って口吻が短縮してきたと考えられています。
口吻の短縮による余剰の骨量は前頭骨を高くし、ストップを深くします。また頬骨弓が横に張り出し、頭部全体が丸味を帯びてくるのです。現代の人為改良された犬種を見れば、それは明らかです。
生存条件によって頭部も変化するわけですが、1万年以上にも及ぶ長い時間が、縄文犬の頭蓋骨に徐徐に変化を生じさせたことは十分に考えられることです。
およそ2,300年前以降、大陸から弥生人と呼ばれる農耕文化を持った人達が渡来しました。犬も帯同して来ました。縄文犬よりはやや大きく、現代の中型日本犬に近いような体高の犬達です。ストップはよりはっきりした頭部の犬です。これらの犬が縄文犬との間で子孫を残していったと考えられています。
さらに時代は下り、大陸との交流も始まると大陸の犬も流入して、日本の犬に影響を与えたかも知れません。長い歴史の中で変化を重ね、明治以降「日本犬」として認識される犬へと繋がっていったのです。
竹を鋭く削いだような型で、やや前傾して屹立する耳は日本犬の象徴です。世界には数多の犬種がいますが、人為によって改良された犬の多くは耳が大きかったり、垂れたりしています。何故日本犬は例外なく耳が立っているのでしょうか。縄文晩期の犬形土製品の写真を示します。尾は立ち、耳はしっかりと立っています。日本の犬は遥か昔より立ち耳だったのです。
野性のイヌ科動物は小型のオオミミギツネでも大型のオオカミでも、すべて耳の直立した長い頭をして、まっすぐな顎に歯が一列に並んでいます。日本犬もまた三角形で直立した耳をして、口吻は尖り、目はやや三角形で、頭部の外見は野性のイヌ科動物ととても良く似ています。それ故に“原初的な犬”と見られているのです。
2017年に161犬種のDNAを調べた研究が報告されています。結果は図のように示されています。
柴犬や秋田犬などアジアのスピッツ系とされる日本犬は、オオカミと近縁な種であると結論されています。
およそ北緯30度より北の地域、あるいは高地に棲息する野性イヌ科動物は、体部が表毛と綿毛からなる二重被毛に覆われています。季節の移り変わりによって換毛が始まると、恰もボロを纏っているかの様な状態になります。その様子は動物園や野外での遭遇、あるいはテレビで紹介される自然観察番組などによって私達は知ることができます。
このような被毛状態は日本犬にも共通して、毎年見られる現象です。日本犬も彼等と同じ二重構造の被毛だからなのです。被毛量を調節することによって暑さ、寒さに対応するのです。
かつて地球は寒冷でした。例えば関東や北陸地方では、北海道位の気候であったことが地質学によって解明されています。寒さに耐えるため、日本犬は二重被毛でなければならなかったのです。
日本犬にとって被毛は、犬質を判断する重要な指標なのです。良質な被毛こそが機能と種としての美を表すといえるでしょう。
毛質とともに毛色も大切な要素です。日本犬には胡麻・赤・黒・白・虎の5種の毛色があります。甲斐犬を除く他の犬種では、赤(茶褐色毛を日本犬保存会では赤と表現します。)を基本色として、その中に黒色毛が疎らに差し込み、黒色毛の多寡と基調の赤色毛の濃淡によって被毛色は決定されています。
四肢・口吻・耳・尾等の太陽に面する反対側では、白にごく近い淡い色彩になっています。これを裏白と呼んでいます。
その他写真に示すように、前肢・後肢の指部に入る黒色のペンシリング、前肢前面に入る黒色のサムマークなども特徴です。さらに尾の基部及び先端に暗褐色〜黒色毛の入るのも特徴です。前肢のマークは黒色犬・胡麻毛犬によく見られ、尾の暗色毛は赤・胡麻・黒毛犬全てに確認されます。これは多くの野性イヌ科動物にも見られる毛色の局部変化です。
日本犬は毛質・毛色のいずれにおいても、オオカミなど野性イヌ科動物と共通する特徴を、今でもはっきりと止めているのです。
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